ねずみのこと 2018.3.27

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天井の「オフィーリア」が

花吹雪の川の流れのなかに

消えて行った

 

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柱のスピーカーからクラシックギターが静かに流れている

 

老木の枝に咲いた花のあいだをムクドリの一群が飛び交って気が狂ったようにはしゃぎながら騒いでいる。

明日にはもう花吹雪でしょう。

 

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アップルパイセット『ねずみのこと』(メニュー)

 

京王線 八王子駅から北へほんの数分、おもしろい店名の『ねずみのこと』さんを訪ねます。

 

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アップルパイセット。アップルパイは熟した芳醇なリンゴの香りがした。コーヒーは、研きこまれた名刀で剣豪が斬った竹の切り口の様な鋭く正しく気高い香りに、ビックリ!

 

店名の由来についてマスターさんにたずねると、

「父がつけた名前なんです」

それ以上はなぜか訊けなかった。

シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に由来するのかもしれない。

いえ、もしかすると他人には言いたくないなにかほかの理由が隠されているのかもしれなかった・・・。

 

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Hot『ねずみのこと』(メニュー)

 

入口のドアを開けると、フロアを左右に分けるようにカウンター席が手前から奥の方に向かって伸びている。

その右側は一段低くなってボックス席が三つ並んでいた。

わたしは真ん中のボックス席の壁側に腰を下ろした。

 

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トーストセット『ねずみのこと』(メニュー)

 

ふと、誰かに見られているような気がした。

緊張が走り、ちょっと落ちつかない気分だ。

マスターさん以外の誰か・・・。

・・・真上からの視線だ。

見上げると大きな人物画の油絵が天井に貼り付いたように飾られている。100号くらいはあるだろうか。

モチーフはミレイの『オフィーリア』を連想させる。

「オフィーリア」・・・

シェイクスピアの戯曲『ハムレット』のなかに登場する人物・・・ヤナギの木から落ちて溺死したデンマーク宰相の娘。
両手を広げ仰向けになって小川の流れのなかにいるオフィーリア・・・目を開き口を半分あけている。
はしばみ色の目は瞳孔が開いているように見える。
魂はすでに抜けおちて磁器のような白いカラダから体温を感じとることはできない。
広げた両手の片方に小さな花束を握っている。
あるいは誰かが手向けたのかもしれない。
これは何の花だろう?
その花言葉に作家は意味を持たせているにちがいない。

タッチは「ロセッティ」とも似ているような気もするが、いまわたしが見ている天井の作品。その描かれた人物「天井のオフィーリア」からは温かな体温と呼気までもが伝わってくるようだ。
ミレイのオフィーリアに負けないほど美しい作品だと思う。
マスターさんに伺うと40年ほど前にご自身が描いた作品だという。

わたしは背中を背もたれにあずけてぼんやりとドアの向こうに目を向けた。

頭の上をぷくぷくと水が流れてゆく音が聞こえる。

天井のオフィーリアがわたしに背中を向けて小川の流れにその身を投じている。

わたしはその流れてゆくすがたを下から見上げている。

オフィーリアは顔をすこしヨコに向けてわたしをじっとみつめながら半分開いた唇がわたしになにかを訴えかけようとしているのだがうまく聴き取ることができない。

流れ去ろうとするオフィーリアにわたしはふと微笑んだ。

そしてオフィーリアは花吹雪舞うなかに消えて行った。

 

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『天井のオフィーリア』(『ねずみのこと』マスターさん作)

 

そういえば、いまそこに居たはずのマスターさんのすがたが見えない。

何処へ消えたのだろう。

わたし以外に客はいなかった。

 

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ここにいたマスターさんのすがたが見えない

 

『ねずみのこと』

基本情報:

所在地:八王子市明神町4丁目2−8

営業時間:9 : 00 ~ 20 : 00

定休日:日曜・祝日

でんわ:042 – 645 – 1179

オープンから:50年

最寄駅:JR & 京王線 八王子駅

 

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